住まいのコラム
耐震基準がいくつもある!?~建築基準法と耐震診断~
2017年11月04日
先日耐震基準適合証明書のホームページからお問い合わせいただいた対応内容からご紹介しましょう。
新耐震基準に適合しているとは、つまり、「耐震等級1」相当の建物であるということなのか?というお問い合わせでした。
非常にややこしいのですが、耐震と名の付く基準は一つではありません。
正確に表現すると、耐震基準適合証明書は「新耐震基準に適合する」ことを証明するものではありません。
一般的に「新耐震基準」は昭和56年6月以降の建築基準法を指すことが多いです。
このことから「新耐震」=「耐震基準適合証明書が発行できる」と勘違いされる方が多いのですが、これは明確に違います。
耐震基準適合証明書の基準は次の二つのうちのいずれかになります。
1)建築基準法施行例第3章及び第5章の4の規定
2)地震に対する安全性に係る基準
1)は建築基準法の耐震基準です。
本来は住宅を新築する際に満たさなければならない基準です。
しかし建築基準法は大きな地震被害の教訓を経て、改正を繰り返しています。
木造戸建ては阪神淡路大震災の教訓を経て2000年6月に大きな改正がありました。
つまり、昭和56年6月以降の「新耐震」であっても2000年6月までの建物は、1)の基準には適合しない可能性が高いと言われます。
それでは2000年6月以降の建物はもれなく耐震基準適合証明書を発行できるかというと、答えは「できません」となります。
家屋の耐震性の判断には建物の劣化状況を判断することが必要になりますので、築年数や残っている書類だけなく現地調査が必要です。
また、建築基準法の耐震基準は非破壊検査では評価しきれない部分も含まれるので、きちんと評価するには壁を解体するなど破壊検査が求められる場合があります。
検査をするだけで工事が必要になるのは現実的ではないので、非破壊検査で建物を評価する基準(上記2)が作られました。
耐震基準適合証明書では、平成18年国土交通省告示184号( http://www.mlit.go.jp/common/001020211.pdf )が地震に対する安全性に係る基準となります。
この184号に記載のある評価方法は、建築防災協会の2012年改訂版「木造住宅の耐震診断と補強方法」( http://www.kenchiku-bosai.or.jp/publication/syousai/01-02.html#15 )という本に解説があります。
位置づけとしては建築基準法の基準と同等とされますが、「木造住宅の耐震診断と補強方法」は見えない部分も含めて評価する手法になるので、建築基準法の基準を満たす建物であっても、「木造住宅の耐震診断と補強方法」の基準を下回ることも想定されます。
自治体などで実施されている耐震診断・耐震改修の助成制度は、「木造住宅の耐震診断と補強方法」によるものがほとんどです。
ややこしいついでに記載しますが、木造住宅の耐震診断法も複数あります。
メジャーなのは一般診断法と精密診断法です。
一般診断法は非破壊検査を想定、精密診断法は破壊検査を伴う詳細な調査が前提とされます。
一般診断法と精密診断法も同等と定義されるのですが、評価方法が異なるため、診断結果は同じにはなりません。
どちらの診断法が良いかなどは評価する建築士が選択することですので、ここでは建築基準法とは異なる評価手法が存在すると整理していただければと思います。
住宅購入時の耐震基準適合証明書については、工法によって1)の基準なのか、2)の基準なのか区分けされます。
例えばマンションの場合ですが、マンションの耐震診断は破壊検査です。
区分所有者の都合で進めることができるものではないので、マンションの耐震基準適合証明書を発行してもらう基準は1)になります。
新築時の図書を確認し、計画通り大規模修繕が実施されている(=劣化がないと判断)のであれば、建築基準法における耐震性能は満たされるだろうという判断です。
対して木造戸建ては前述の2000年6月基準の存在に加え、一般的な修繕計画が運用されているわけではない、新築時の図書が保管されていない、完了検査を実施していない物件は設計通り建築されたことを証明できないなどの理由から、耐震診断を実施して評価した方が現実的であるという判断になります。
かなりややこしい話をしてしまったのですが、要するに「耐震基準は複数存在していて」「工法や構造によって判断が異なる」ので、中古住宅を購入する場合は「必ず耐震基準に詳しい建築士に相談した方が良い」ということです。
最後に耐震等級についてですが、こちらも非常にややこしい話になるので、別の日にテーマを分けたいと思います。
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