家の所有権は放棄できるのか?

結論から言うと、家の所有権については単純に放棄することはできません。
例えば、親の死亡によって実家を相続した場合、その後実家は使わないからといって所有権を放棄することはできません。
所有権が放棄できないということは、次の義務からも逃れることはできません。

■所有者が負う主な義務

・建物自体の管理責任
たとえ遠方に住んでいたとしても、建物の所有者は管理責任から逃れられません。
近所の人に迷惑がかからないよう、建物の最低限のメンテナンスや管理を継続する必要があります。

・納税義務
実家を使用しなかったとしても、固定資産税については所有者に課税されます。
所有権が放棄できない以上は、固定資産税についても払い続けなければなりません。

家

 

 

 

 

 

 

■所有権は売却または贈与ができる

所有権は必要ないからと言って放棄することはできませんが、売却や贈与によって、他人に移転させることは可能です。
資産価値のある物件であれば、不動産会社に依頼して売却することで所有権を手放すことができます。

地方で買い手がつかないような場合は、近所の地権者や不動産会社に贈与するという方法もあります。
なお、自治体に寄付しようとする人がいますが、利用価値の低い土地については、寄付を断られますので、
その場合には、売却か贈与で移転できる先を探すしかありません。

このように、使わない実家を相続してしまうと、その後の処分がとても大変で、処分できるまでは管理責任や納税義務を負うことになります。

そこで、このような事態を避けるために、相続自体を放棄するという方法があります。

相続放棄で家の所有権を手放す際の注意点

不動産の所有権については放棄することはできませんが、そもそも相続自体を放棄すれば、所有権を取得することもありません。
相続を放棄することを“相続放棄”と言い、相続放棄をすることで使わない実家を相続する事態を回避することができます。
ただ、相続放棄を選択する際には、次の点に注意しなければなりません。


■相続放棄をすると、すべての財産を相続できなくなる
例えば、相続財産が1億円の預貯金と実家だったとします。この場合、1億円の預貯金だけ相続して、実家だけ相続放棄をするということはできません。
相続放棄は、一部の財産だけ放棄することはできず、すべての財産に対して相続放棄するかどうかで判断しなければなりません。

つまり、相続放棄をすれば実家はもちろんの事、1億円の預貯金についても諦めなければならないのです。
そもそも相続放棄とは、その手続きをすることで“当初から相続人ではなかった”ことになるため、相続人ではなくなる以上、いかなる財産も相続する権利を失ってしまうのです。


■相続放棄によって、他の親族に迷惑がかかる可能性がある
もしも遺産相続において、目立った財産が使用する予定のない実家しかなかった場合、相続放棄をすることによって、空家問題に頭を悩ませる事態を回避することができます。ただし、安易に相続放棄をすると、他の親族に迷惑がかかる可能性があります。

例えば、次のようなケースを想定します。

被相続人:父親
相続人:息子一人のみ(母親は既に他界している)

このケースの場合に、息子が相続放棄をすると、相続権が第二順位である直系尊属(被相続人の両親)に移ります。また、直系尊属が既に死亡している場合は、第三順位である被相続人の兄弟姉妹にまで相続権が移ります。

このように相続放棄をすればそれですべて解決するわけではなく、放棄された相続権は次順位の相続人に移っていくのです。そのため、使う予定のない実家を相続放棄する際には、あらかじめ第二順位、第三順位の相続人に対してもきちんと説明して理解を求めることが重要です。

相続放棄の手順について

相続放棄は家庭裁判所に申述して行う、正式な法的手続きです。相続をしない旨の一筆を書いたり、家族に伝えたりするだけでは、相続放棄とは認められません。また、相続放棄の場合は、亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に手続きを採る必要がありますので注意しましょう。相続放棄の手続きは概ね以下のとおりです。(※裁判所によって一部異なる場合があります)


1:相続財産の調査
まずは被相続人が所有していた財産を、洗いざらいすべて確認します。預貯金や現金、不動産や有価証券などのプラスの財産はもちろんの事、借金やローンなどのマイナスの財産についても相続の対象ですからもれなく調査する必要があります。

2:相続人の確定
被相続人の死亡から出生まで遡って戸籍を取得し、相続人が誰なのかを確定させます。稀に隠し子がいたり、認知している子供がいたりということが発覚することもありますので、入念に確認しましょう。

3:相続放棄申述書の作成
相続放棄の手続きを申し出るための申述書を作成します。その他にも戸籍謄本など相続人の構成によって添付書類が必要になります。

4:家庭裁判所に提出する
相続放棄の申し立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。

5:家庭裁判所から照会が届く
家庭裁判所から本当に相続放棄をしても良いのか、相続放棄した場合にどうなるのかを最終確認する旨の通知書が届きます。必要事項を記入して返送します。

6:相続放棄の申述の受理
家庭裁判所で正式に相続放棄が受理され、通知書が送られてきます。これによって手続きは完了します。

このように、家庭裁判所に申述することで、不動産の所有権についても相続を放棄することができます。

相続放棄すると相続税に影響が出る

相続税の基礎控除額は、“3,000万円+法定相続人×600万円”という計算式で算出されます。相続放棄をしたとしても、法定相続人の人数をカウントする際には、相続放棄はなかったものとしてカウントするため、基礎控除額には影響はありません。

ただし、相続放棄をした人が保険金を受取る際には注意が必要です。生命保険金については、受取人固有の財産とされているため、相続放棄に関係なく受取ることができます。

この際、生命保険金については相続税の基礎控除額とは別枠で「法定相続人×500万円」という非課税枠が設定されています。もしも相続放棄をしていると、この非課税枠が相続放棄した人に対して適用できなくなるため、相続税が割高になります。

このように1人が相続放棄をすると、相続税の総額が変化しますので十分注意しましょう

もしも使わない実家を相続した場合の対処法

もしもすでに使わない実家を相続している方については、次のいずれかの方法で対処することをおすすめします。

1:賃貸として一般に貸し出す
地方の一戸建てについては、賃貸に出すと意外に借り手がつくケースがあります。特に駐車場付きの一戸建てについては、ある程度の需要があるため、無理に処分するのではなく、賃貸として運用すると、空家問題も解消できて一石二鳥です。

2:売却する
使わない実家でも、なんとなく寂しい気がして売却に踏み切れないという人もいるようです。ただ、人が住まなくなった家は、想像以上に早い速度で劣化していきます。もしも売却に踏み切るのであれば、できる限り早い段階で決断することが大切です。

所有権は放棄できない、いらない場合は相続放棄を検討しましょう

不動産の所有権については、一度取得してしまうと放棄することができません。もしも、使う予定のない不動産が相続財産に含まれている場合は、相続放棄も合わせて検討することをおすすめします。
また、すでに相続している方は、空家のまま放置せず、賃貸物件として運用するか、売却するなど早めに対策を講じることが重要です。